#ここで字下げ終わり]
 と云いすてて仙二は家へもかえらず町にも行かないで池の面に雨の雫が落ちて小さいうろこ形を沢山作って居るのを見ながら、とめどなく涙をこぼした。
 何にもたよるものがないと云った様に池のくいにもたれて、足元の草の間から蛙が飛び出して行く様子にも、傘の雨のあたるささやかな音にも涙はさそい出されて遠くからの子守唄をきいた時にはもうたまらなくなってぬれてひやびやとするくいの木の肌に頬ずりをした。
 まっすぐにあるけない様な気持で下を見つづけて家にかえるとすぐ机に頭をのっけて雨の音を遠く近くききながら寝るとはなしにうっとりして居た。
 そんな、辛い気持になりながらも仙二は翌日は又そとに出た。
 雨上りの路が大変悪かったんでどこにも娘のかげは見えなかった。
 それから三日ちっとも娘の姿は見えなかった。
 もう娘に会えないと心にきめて朝早く川沿を歩いて居た仙二は、とび上るほどうれしくそして又おどろきもした。
 この村に育った色の黒い娘と二人でひざまで水につけて雑魚をすくって居る赤い帯の姿を見つけた。
 仙二はだまってどての上からさわぎ笑って居る二人の娘の顔色の違いにおどろかされ
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