て居た。
白い瀬戸を引いたなべの中に青光る小魚が泳いで居た。あみを流れのすぐそばに置いて二人は今すくった少しばかりの小魚をなべの中にあけて居る間にあみは一つフラフラと流れ出した。
二人の気のついた時にはもうかなりはなれた所を浮いて居た。
「アラー」
先に気のついた仙二の娘はとび出した様な声で叫んだ。
掛声をかけられた様に仙二はどてからかけ下りて裾をつまんだまんま水をわたって五六間先に行ったあみをつかまえた。
かたまって見て居た仙二の娘はあみを手にとるとすぐ、
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まあ、ほんとうに有難う。
たった一つっきりあみを持ってないんですもの、なくなったら随分困るとこだった――
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いかにも嬉しそうに顔いっぱい笑いながら礼を云われた時仙二はふるえながら、
いいえ
と云ったまんまどうしていいかわからない様にしてもとの堤に立って居た。
やがてまもなく二人が帰ってしまったあとを堤に座ってさっき娘の云って呉れた言葉とあのはずんだ様な笑声を思い出した。
まあほんとうにありがとう
と云った若い声はも一人の子がだまってただ立って居たのにくら
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