べてよけい仙二にははっきりと覚えられた。
低いふるえを帯びた溜息は幾度も幾度も仙二の唇を流れ出して草の根元に消えて行った。
死んでもいい時が来た様にさえ思えて居た。
その次会った時には、
こないだどうもありがとう
こんな事も云う様になったと云うことがいかにも大きな事か大変な事の様に感じられて、その次にかけて呉れる言葉を想像した。
けれ共その次に行き会った時にはただ極く少しばかりの微笑を口のはたに浮べたばっかりだった。
仙二の心の上には又重いものがのしかかった。
娘の夢の様な微笑に胸をおどらせながら夏の終り頃まで仙二は暮した。
けれ共九月に入ってから一寸も影を見ない様になった。
病気でもしてるかしらん
やせて床にねたきりの可哀そうな様子もその先の悲しい事まで想像して涙さえこぼして居たけれ共、きく人はだれもなかったんで不安心な日をじめじめと暮して居た。
娘に会わなくなってから十日ほどたって仙二は又お婆さんの家へ行った。
心置きなくお婆さんはいろいろの事を話しながら、
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御隠居さんも淋しがってねえ、今も私が行って来たので――
お嬢さんが
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