は垣根からはなれてどこと云うあてもなく畑の方に歩き出した。
 畑地の足のうずまる様なムクムクの細道をうつむいて歩きながら青い少し年には骨立った手を揉み合わせては頼りない様に口笛を吹いた。
 畑の斜に下って居る桑の木の下に座って仙二は向うに働いて居る作男のくわの先が時々キラッキラッと黒土の間に光るのや、馬子が街道を行く道かならずよる茶屋めいた処の子達が池に来て水をあびて居るのなんかを見て居た。
 仙二のすきな歌も口には出て来ず、こないだの晩娘がうたって居た細かい節廻しの歌を思い出し思い出し所々間違えながら小声にうたったりした。
 畑地に座って仙二は時の立つのを知らなかった。
 もう午近くなった頃、向うの葡萄園の方からしぼりの着物を着た娘が女中と何か話しながら来るのを見つけた。
 サーッと潮の寄せて来た時に仙二は頭があつくなった。いつもの通り桑の木影に前にもまして体をすくめて耳と目は三人分のを集めたほどさとく働いた。
 娘達は仙二のかくれて居る桑の木から二三間左の細道を歩いてきた。
 まっすぐな光りをうけてうす赤く娘の顔はのぼせて素に着た海の色の着物から頸がぬけた様に白く赤い帯は下の方で二
前へ 次へ
全14ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング