った。
青い空とみどりの木の梢を見ながら娘が垣根に欲しがって居た花がひっかかって居るのを見つけたらきっと、
[#ここから1字下げ]
あらまあ――一寸お祖母様あの花が有る事よ
[#ここで字下げ終わり]
と云うに違いない。そうして背のびをしながら花をおろしてそれからどうするだろう。
仙二ははてしなくいろいろの事を思いつづけた。
しずかな中に思って居る事は仙二にこの上なく楽しいそして又それと同じ位悲しい事だった。
仙二は立ち上って娘の垣根の処に行った。
垣根に身をよせて中の様子をきき耳をたてて居た。
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早く顔を洗って来るものだよ。
だってお祖母様――まだほんとうに覚めきらないんですもの
[#ここで字下げ終わり]
こんな事を云ってかるい声で笑うのが聞えると仙二は誘われる様に微笑みながら藻の花の茎を前歯でかんで一つ処を見つめた目はしきりに間[#「間」に「ママ」の注記]ばたきをして居た。
かなりの長い時間が立っても花の事は何とも云われなかった。奥の部屋で女中と笑って居る娘の声や箪笥のかんの音なんかが意地悪いまでに仙二の気をいらだてた。
首を一つふって仙二
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