。かなり広い池をのこりなく泳ぎまわって盛の藻の花をつきるまで取った。
茶色のくきの細くて長いのを首にかけて上った時、仙二は涙をこぼしそうに嬉しかった。
その経と茎をつなぎあわせて輪をつくってその間に池のまわりにさいて居る野の花をあみこんだそれを池のわきの木の枝にひっかけて仙二は見て居た。
見て居るうちにそれがあんまりわざとらしいのに気がついた。
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こんな事をして自分がしたとは知らなくってもいや味な事をすると思うかもしれない。
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仙二は丁寧にまたその輪をほぐした。
長い短かいのあるまんま花だけをそろえて、その元を細いしなしなの茎を持った花で結えた。
それを池から間もない所にある娘のうちの垣根にひっかけて仙二はにげる様にもとの草原に来てころがった。
昨日娘が池のふちを歩きながら、藻の花が欲しいと云って居るのを仙二はきいた。
「取ってやろうか」その時すぐ思ったけれ共大方はもう花弁を閉じてしまって居たので同じ取るんならあしたまだ花の目を覚したばっかりの処を取った方が好いと思って仙二は何となし胸のおどる様な気持でその晩は床に入ったのだ
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