云うのを知りその人達の住んで居る杉並木の奥にある平屋なんかも思った。
 仙二はまだ見た事もない髪形や着物の模様を批評するよりただ珍らしいと思ってばかり見た。
 その家のわきを通るとその娘の笑う高い声や戯言を云うのがきこえ夜の静かな中に高くて細い歌声がこまかくふるえて遠くまでひびいて居る事もあった。
 高い張った声とはっきりした身なりは仙二がどうしても忘れる事は出来なくなった。
  一言自分のために――
 こんな事も思って娘のあの早口さを思い出したりしながらも昼間その家の前の一本道なんかで会うときっと道もない畑の中をわたって反対の方に行ってしまった。
 おどおどしながら仙二はまだ若い娘が落ついた取りすました眼付をして平らな足つきで今まで来た道を一寸もかえないで行くのを不思議に思った。
 歩く時いつでも右の袂の中頃をもって居るのが癖だと云う事を見つけて仙二はわけもなく可笑しかった。
 その娘は村の人誰からも快くあつかわれた、そしてだれでもが、
 お嬢さんとか、お嬢さま、とか呼んで居た。
 仙二は朝早く起きるとすぐ池にとんで行った、そうして着物をぬぐとすぐまっさおな水面に水鳥の様に泳ぎ出した
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