いて居た。
人になれきったその馬の首を撫でたりカナカナと調子をあわせて口笛を吹いたり何とはなしの嬉しさが体の内におどりくるって居た。
池のくいによっかかって居た時池のすぐわきを二つの声がよぎって行った。
一つの声はまだ育ちきれない女の若々しさを持って早口に通る響をもってなめらかにいろいろの事を話し、一つの声は余裕のある生活をして居る年よりの声であった。
仙二ははじかれた様に振りっかえった。
切り下げの白っぽい着物の上に重味のありそうな羽織を着た年寄りのわきにぴったりとついて長い袂の大きな蝶の飛んで居る着物にまっ赤な帯を小さく結んで雪踏《せった》の音を川の流れと交って響かせて行く若い女の様子を仙二は恐ろしい様な気持で見た。
二つの姿はまがって大神宮の方に見えなくなった。
仙二はフットあたりを見廻してから口笛を吹き出して何のあてどもなく足元の花をむしった。
そうして何となく重い物を抱えた様にして家にかえった。
それから後毎日夕方になるときっとその二つの姿を見た、いつの時でも女はきっと赤い帯に雪踏をはいて居た。
二三日たった仙二は年寄は自分が先からもチョクチョク会う人だと
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