デーである。
例年作家団体は、デモに参加して数十万の勤労者とともに赤い広場でスターリンの激励の言葉に向って、歓呼の声をあげる。
五月二日はいわば一日の疲れ休みである。
(2)
閑散な日の光をあびて、劇場広場の角に大きな水色の横旗がさがっている。そこに日本語で、
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万国の労働者団結せよ!
[#ここで字下げ終わり]
と書いてあるのが、今日は遠くからはっきり見える。
昨日踵の低い靴をはいて数露里をデモで歩いた婦人労働者達は、今日はおしゃれだ。
とっておきの靴をはいて、初夏らしい帽子をかぶり手に袋など持って、のんびり散歩している。連れの男も上衣のボタン・ホールにリボンでこしらえたレーニンの肖像入りの飾り(一個二十カペイキ)などがついている。
小さい鈴蘭の束をさしたのもいる。
前日大群衆に揉みぬかれた都会モスクワと人とは、くたびれながらも、気は軽い。そう云う風だ。
店はしまっている。
物売も出ていない。
午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通りは歩道一杯の人だ。みると芸術座の入口に特別はり札が出ている。
本日は労働
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