日赤い広場はみちがえるような光景である。
 普請中のレーニン廟の数町に渡る板がこいは、あでやかな壁画で被われている。
 集団農場の光景だ。
 果しない耕地にトラクターが進んでゆく。青葉の繁った木立ちのこっち側には集団牧場がみえる。楽し気な牛、馬、羊、年とった集団農場員が若いもの、孫のようなピオニェール等にかこまれて、働き、ラジオをきき、字をならっている。
 鉄橋がある。遠く水力電気発電所がみえる。穀物、家畜を積んだ貨車と、農具を満載した貨車とがすれちがった。
 都会だ。工場だ。都会の工業生産と、労働者との姿が巨大に素朴にかかれている。
 閲兵式につづいてデモはモスクワ全市のあらゆる街筋から、この赤い広場に流れこむ。
 日が暮れて、すべてのデモが解散した後も、ここはまだ一杯の人出である。レーニン廟の板がこいの壁画をめぐって、イルミネーションがともされた。
 有名な昔の首切台の中には、雲つくような労働者の群像が飾られている。
 強烈なアーク燈に照らされ、群像の上にひるがえる幾流もの赤旗は夜に燃える火のようだ。左手につづく国立物品販売所の正面には、イルミネーションで、
[#ここから2字下げ]
前へ 次へ
全10ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング