ヴォルフの世界
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き]〔一九四一年五月〕
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この間さがさなければならない本があって銀座の紀伊国屋へよったらば、欲しいものはなかったかわり、思いがけずパウル・ヴォルフの傑作写真集が飾窓に出ているのに気がついた。もうかえろうとして飾窓をふりかえったら、そこにある。見たくなって、もう一遍混雑をきわめた店内へ戻って、奥の方で開けて眺めているうち、大決心をして到頭買って来た。
ヴォルフの写真を集めた本は、何年か前に「海辺にて」という題だったか、ヴォルフ夫人と幼い女の児とを海辺の様々な情景で撮したのを見たことがあった。その時から写真にもこういう味いがあり得るのだという印象をつよくのこされた。
日頃カメラを愛する人々にとっては、今更ヴォルフも知れすぎた物語であろうけれど、番町書房というところから発行されているこの一冊の作品集は、いろいろな感銘で私をうごかした。
ヴォルフのカメラはまるで美感と温さとをもった生きもののようで、独特の生命に流動しながら、対象の極めて自然
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