興味を捕えた。
「小さいひとがやかましいし、いろいろだから……じゃ明日お午っから出ましょうか。七時までに帰れますわね」
「でも……榎さん明日お出かけですか」
「出るでしょうきっと。……きのうは十一時ごろ出てったわ」
絹子は、薄い肩をちょっと引そばめるようにして笑った。
「今日は?」
「さあ一時過ぎてたかしら」
榎が形式的に顔を出す先代からの合名会社が日本橋にあるのであった。
「あした一時じゃ、工合わるいですね、かえりがおそくなるから」
「そうね……でも、きっと出て行くでしょう……」
帯留の下のところで、両腕を銘仙の袂の上から持ち合わせていた絹子は、
「ああ、じゃこうしましょう、もし家にいて都合わるかったらお電話申上げるわ、お宅へ」
「だって、なんて?」
「あら! 本当にね、何ていいましょう!」
絹子と佳一は、おかしそうに、自然のおかしさをやや誇張した笑い声で笑った。やがて、佳一が、真面目になって策を授けた。
「じゃ御都合わるかったら、電話で、こないだの話は、向うから都合悪いといって来たからって、いって下さいませんか。安達さんへテニス・コート拝借するんです」
「ああ、名案! 名案
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