ヴァリエテ
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)神楽坂《かぐらざか》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)深いえくぼ[#「えくぼ」に傍点]をよせ、
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佳一は、久しぶりで大岡を訪ねた。
不在で、細君が玄関へ出て来た。四五日前からシネマの用事で京都へ行っているということであった。
「そうですか、じゃまた上ります。おかえりになったらよろしく」
再び帽子をかぶりそこを出たが、佳一は、そろそろ貸ボートなど浮かび初めた牛込見付の初夏景色を見下したまま佇んだ。
大岡は、ああいっていたって、本当に京都へ行ったのかどうか解りはしなかった。彼の彫刻のモデルになったお美濃さんという若い娘が、近頃恋人になった話は、佳一も聞いていた。大岡は、これまでもそういう種類のすきな女が出来ると、十日でも二十日でも、互があきるまで家をおっぽり出して、どこかへ引籠って暮す性の男なのであった。
佳一は苦笑と羨望とを、同時に年上の友に対して感じた。彼はエアシップの吸殻を、ボールでも投げるように、勢いよく濠の水の上へ投げすて、あゆみ出した。
午後二
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