喫茶店で十分とは費さなかった。往来を三四人の人間が駆て行くのが見えた。
――オヤ、どうかしたかな――と思って、急いで外へ出て劇場広場まで戻ると、
――これはどうしたことだ!――
――赤旗も、労働者も、反動青年団の密集した列も、どこへ行ったか、跡かたもない。チリヂリに群集が、踏みしだかれた広場の土の上を歩いているだけだ。
デモはそんなに急に、巧妙に解散させられてしまったのだ。
昨夜の雨はやんで、晴渡ったメーデーだ。
だが、わたしたちの見たのは何であったか?
わたしはおそらく、一生ポーランドの一九二九年のメーデーを忘れないだろう。
一節で圧殺されたインターナショナルの響と、労働者を囲んで林立していたステッキとを、忘れないだろう。[#地付き]〔一九三一年五月〕
底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
1952(昭和27)年12月発行
初出:「女人芸術」
1931(昭和6)年5月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
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