ろぞろ二階の教室へのぼってった。教授はまだ出て来ない。喋ってると、
 ――一寸、しずかにして下さい!
 席から立ち上って、ナデージュダが云った。
 ――私は壁新聞の責任者として云いますが、この頃、何故だかみんなの投書がへりました。どうか奮って投書して下さい。
 ――氷滑りで時間がないんだ。
 鉛筆をけずりながら、大人っぽい声でドゥーシャがやりかえした。
 ――氷滑りにだって階級性はありますよ。
 ワーニカとターニャは並んでかけてる。ワーニカはしかしターニャと別に喋くらない。ぺちゃぺちゃやってるのは、ターニャと同じ小学校からやって来たイワンだ。
 イワンは技師の息子で、みんなの間に有名な一つの病気をもっている。それは、学生委員会であろうが、昨夜のような集会であろうが自分が鼻をつっこめるだけの場所で、誰か一寸余分に拍手された話し手があると、きっと次の日は一日それにくっついて歩くのだ。
 イワンは、下らないことを喋りゃしない。今もターニャにアメリカ経済恐慌で、フォード自動車はどれだけ生産を縮小したかということを喋くっている。
 イワンは皆の知ってることしか知らないのだが、数字だけは特別出来な
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