こを散歩出来る連中――事務員。料理女。いろいろな家庭雇人の洪水である。
 小みちも草原も人だ。人だ。
 自然と人間の割合がこんなに逆になる日曜日彼らの主人達は、ハイド・パアクへなんか姿は現さぬ。週末休《ウィークエンド》に自用車をとばしてどっか田舎のクラブか、別荘か、公園か、とにかく彼の週給額を半径となし得るだけ遠くロンドンから飛び去る。
 赤羅紗服地の見本みたいに念の入った恰好をした英国の兵士達が剣がわりの杖を小脇に挾みながら人通の繁いハイド・パアク・コオナアで横目を使った。そこでは乗合自動車《オムニバス》を降りるとその足で真直「婦人用《レディース》」と札の下った公園の鉄柵中へ行く女は大勢ある。
 半本しか脚のない胴をすえて乞食がせっせとペーヴメントへ色チョークで鼻の脇の真黒な婦人像、風景等を描いていた。「|有難う《サンキュー》!」「|有難う《サンキュー》!」石の上に書いてある。英国で乞食は声を出して慈悲を強請することは許されぬ。与えられる親切に対して感謝を表すだけが許されるのだ。「|有難う《サンキュー》! もし私の仕事が貴君の一ペンスに価するならば!」
 洗いざらしでも子供に着せる日
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