イプ。あいびき。それから家庭へ! 家庭へ! 下宿へ。下宿へ! 英蘭銀行《バンク・オヴ・イングランド》を中軸とする商業地帯は午後五時以後一時に暗く貧血して夜毎の仮死状態に入る。
が、諸君!
ロンドンの勤労者諸君! 諸君はロンドン地下電車に積み込まれて疾走しつつ、頭の上にどんなロンドン市地図が展開しているか果して知っているか? 大都会の植民地|東端《イーストエンド》から英蘭銀行《バンク・オヴ・イングランド》にいたる黒い長い路。それから、新聞街、問屋町、西《ウエスト》バッキンガムに至るまでの活溌な、広い路。そのどこに諸君の町があるか。知っているか? 地表のロンドン市がいるのは労力だけだ。だから地下電車は君らを真空管のように吸い込んでは市の中へ、真空管のように吸い込んでは、滓として市の外へ捨てつつある。ただ手に持つパイプをたたき落されないだけの平安だのに、諸君はさながらロンドンを所有しているかの如く平安なのだ。
或る日、東端《イーストエンド》から逆三角の顔を持つ老いたる若い時代が隊伍をなしてくり出して来なければならない。そしてロンドン市はいかに彼らの上に組み立てられているか、知らなければ
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