、下士およびロンドン市民の不朽なる名誉の為に、記念碑が立てられている。今日は休戦記念日《アーミスティスデー》じゃない。事務的なロンドン人は邪魔っけそうにその銀行前に突立つ記念碑をよけて急ぎ歩いた。枯れた花輪が根のところにあった。いくつもの空の花立はひっくり返って、白い鳩の糞だらけだ。そして三角州の突端、騎馬のウェリントン公爵像は背後に英蘭銀行《バンク・オヴ・イングランド》を、右手に株式取引所の厖大な建物を護り、巡査部長のように雑踏を上から睥睨《へいげい》している。
|山の手《ウエスト》のここは終点である。英国のあらゆる国家的、個人的美徳、老獪、権謀がこの煤けた八本の大柱列内部で週給六十四シリング以下三四十シリングの男女行員達のペンにより簡単明瞭なる「借」「貸」に帰納されつつある。背後に「東端《イーストエンド》」がひろがり始めていようとも英蘭銀行《バンク・オヴ・イングランド》の正面《ファサード》は広大だ。両手を拡げるように都会植民地の前に大柱列を並べ、人はそこまで出てしまうと西《ウエスト》から来て再び西《ウエスト》へ寄せ返す人波と、二つの巨大な磁石巖――株式取引所と銀行とのまわりで揉み
前へ
次へ
全67ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング