して再び場末のごたごた中に驀進した。

 デパアトメント・ストアだ。家具大売出し! 十八ヵ月月賦!
「キリストは生きている!」教会だ。
「質」
「古着」

 高い建物と建物との隙間に引込んで煤けきった大鉄骨が見えた。黒い、日のささぬ鉄骨の間に白いものを着た子供が動いていた。工場裏に似たそれは皇后児童病院《クイーン・ホスピタル・フォア・チルドレン》だった。

 チラリと水がはがね色に光った。掘割だ。高架鉄道|陸橋《ブリッジ》は四階の窓と窓とを貫通した。

 タクシーがちらほら走った。

 おや、しゃれた警笛《クラクソン》が鳴るじゃないか。なるほど乗合自動車《オムニバス》はやっとロンドン市自用車疾走区域に入った。

 汽船会社が始まった。また汽船会社がある。何とかドック会社がある。船舶保険株式会社がある。再び汽船会社だ。
 その建物全体がそのまま金庫みたいな外観をもっていた。窓に金色の楯に王冠をかぶった獅子と馬とが前脚をかけた例の皇帝紋章が打ってある「大英宝石商会」である。
 続いて堅牢な石の外壁に沿って走り乗合自動車《オムニバス》は非常な雑踏のまっ只中に止る。そこは都会の三角州である。こ
前へ 次へ
全67ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング