て見くらべている。日曜日のために彼女はおそらく飲まなかった茶のいくばくかを一筋のビーズにしようとしているのだろう。地下の売場へ降りる階段二段目に二三人のちび[#「ちび」に傍点]が陣どってかたまっていた。一人が手の中へ何か握っている。頭を突き合わせてそれをのぞいていたが大人が通りかかると中心の一人はすばやくその手をげんこにして背中にまわしてしまった。この町で大人は子供の楽しみのために顧慮する時間を持っていない。土曜日だ。ロンドン市中で一足売の人絹靴下が数でこなされる土曜日である。
|山の手《ウエストエンド》の公園ケンシントン・ガーデンの鉄柵にはいろんな門がついていた。門にはそれぞれ名がついている。プリンス・オヴ・ウェールス門。クウィーン門。そして或る門の前では巡査が立っている。夏で「ロンドンは田舎っぺえのロンドンになった」ので公園の鉄柵は塗かえ中だ。繩を張って歩道の交通を止め、職人が鉄柵のあっちこっちにつかまってペンキを塗っている。
鉄柵の奥に散歩道があった。左右が花壇だ。草は溢れる緑だ。樹も緑だ。緑の草原は自然の起伏をもって丘となり原となり、英国のオリーヴ色がかって緑の深い樹蔭を
前へ
次へ
全67ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング