通にあった。自動車に関係ある人なら誰でも会員になれるのだそうだ。じゃあビーン製作工場の労働者や、オーステン製作場に働いてるものはてのひらの皮まで自動車油にしみついてずいぶん直接関係の者なんだが――どうだろう? 一つ会員にしちゃ貰えまいか。夜会服で英国のプディングを食っている王室自動車クラブの連中はびっくりして、その仲間をそっと喫煙室の隅へ引っぱって行き、舌を出させて覗き込むだろう。それから医学的忠告を与えるに違いない。――君、気をしずめ給え。冷えないように今のうち家へ帰ってヒマシ油飲んで床へ入るこったね。……
ロンドンの全人口が毎土曜ゴルフをやりに出かけるのではない。証拠に、こう云う文句がある。「おい、あの紳士は、フランス語、イタリー語にゴルフ語しゃべくるぜ」
ジュネ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]に於ける国際連盟の都市衛生顧問は、世界に於て最も衛生施設の行届いた都会としてロンドンをあげるだろう。巡回看護の制度はロンドンで最初に制定されたと。ロンドンで病院《ホスピタル》と云えばほとんど無料病院の同義語ではないか、と。たしかにイギリス人は公共慈善事業への応分の寄附は、犬一匹飼えば七シリング六ペンスの税を払わなければならないと同様定期支出の一部と認める伝統をもって来た。しかし本来の性質上その英国に於てさえ慈善心の発動にはいかに技巧的な絶間ない刺戟が必要かと云う例をレッツ出版の事務用出納簿が明かに示した。そこで彼らは五十余頁にわたる類別商店会案内の後でいきなり痛切な活字の叫びに捉えられるだろう。
――|助けよ《ヘルプ》※[#感嘆符二つ、1−8−75]
――一杯やる前に遺言に署名せよ。(サミュエル・ジョンソン)貴君の遺言中に当院への遺贈を記入されんことを。
――何処にあるか。
何をしているか。
何を必要としているか。
助《ヘルプ》を求めて!※[#感嘆符二つ、1−8−75]! 火花を飛ばしているのは病院孤児院ばかりではない。宗教団体、養老院、盲唖院、皇后が保護者となっている馬の休養所まで等しく「熱心に」「火急に」寄附を求めている。
ミス・エラリン・メイシーは社会組織のひびから発するこの!《エクスクラメーション》を事務家的才能で把握し婦人雑誌に写真ののる成功者となった。慈善的催しを組織する専門職業婦人がロンドンに数人ある。彼女もその一人で
前へ
次へ
全34ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング