30の比率であることを心がけている。人間のうちにあっては、例えばスノーデンがヘーグでは100パーセントの英国人[#「英国人」に傍点]で英国の利害[#「英国の利害」に傍点]を主張している時、それを支持するロンドン中流男女は、自然的公園の樹蔭をスコッチ・テリアをつれパイプとともに散策しつつ彼らの沈着な商魂《コンマーシャルマインド》を放牧した。スコッチ・テリアの鼻面は四角だ。手をのばした背中に臆病な挨拶《コムプリメント》を与えようとするとスコッチ・テリアの剛毛は自尊心のごとく無用の愛撫に向ってけばだった。
|山の手《ウエストエンド》のエハガキ店頭の滑稽《ユーモア》は大体犬と猫とが独占している――。
弾機《ばね》のいい黒塗の乳母車に白衣の保姆《ナアス》をつれた若夫人が草原の上へ小テーブルに向って脚を組んでいる。そこはケンシントン・ガーデンの奥の野天喫茶店だ。黄赤縞、或は藍と黄の縞、大きな日除傘は英国公園の樹々の間にあってややエキゾティックな派手さを部分的に描き出した。片手のキッド手袋はぬがぬままステッキのかしらについて、茶碗をくちもとにはこんでいる老紳士もある。あたりの草原に雀と鳩がいた。テーブルに向って坐ってる人々はゆっくり茶を飲みながら気が向くと皿の上からパン片や菓子の粉をとりそれらの鳩や雀に投げてやっている。幼児がよちよちと、母の投げた毬《まり》を追っかけて雀どもを追い立てた。雀はさえずる。低くとび去る。燕尾服に白前掛の給仕が盆をささげてそばを過ぎながら笑って腰をかがめ、毬を今度はテーブルについている母親のあしもとの方へころがしてやった。
草原は低い鉄柵で囲まれている。
鉄柵に片脚ひっかけ、平行棒をまたぎそこなったようなかっこうで一人の酔っぱらいがふらついていた。垢の光沢だけが見える服だ。カラーはない。鳥打帽をかぶっている。鉄柵から華やかな喫茶店のひよけ傘まではただ数歩の距離だ。四十がらみの一見まごうかたないその失業酔っぱらいは鉄柵の上でふらふらしながら満足した人々の群を眺めていた。永いこと眺めた。それから帽子を手に持ち、やっこら鉄柵をこっちへ越した。そして直ぐテーブルの傍の草原へ来て仰向にころがった。
赫黒い顔のついたぼろだ。
雀はテーブルのまわりでこぼれた菓子の粉をついばみピョンピョンとんでねている酔っぱらいの髪の毛のそばまでまわった。|午後の茶《ア
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