特別なんです」
廊下を曲りくねって厚いガラス戸で仕切ってあるところへ来た。
「その上っぱりを脱いで下さい」
脱いで、その仕切りを彼方側へ入ると、また別な上っぱりを着せられた。
「ここからは、病気のある――軽い性病のある母親の棟です」
分娩室は今空だ。隅に大きい照明燈があっち向に立ってる。
「母親の病室は同じですが……われわれは赤坊に深い注意を払っています」
赤坊室で、自分は強い印象をうけた。
ソヴェト同盟の親切な、生活的な科学的考慮が実にこまやかに行われている。性病のある母親から生れても、例えば梅毒の遺伝のある赤坊も、全然それのない赤坊もある。その区別をハッキリ赤坊室を別にしてつけてある。
遺伝のあらわれている赤坊が五六人しずかに、然し一目でわかる血色のわるい皮膚をして眠っている奥に、行って見るともう一つ特別室がある。そこの戸をあけたら、医員の白い上っぱりも一時に紫っぽい色に変った――すっかり窓が着色ガラスで張られているのだ。
「御承知の通り、性病の遺伝のある赤坊はよく眼が弱いものです。普通の日光では刺戟がつよすぎて害があるから、こうして育てるわけです」
どの産院でも、出
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