葉をかけてやっている。激しい、生《いのち》の戦場だ。
「――説明をおとしましたが、ここはみんな普通の、つまり健康な母親たちの棟です」
 病室が三つある。産後のやつれは見せているが、一様に穏やかな満足げな目附をした母親たちが、カーテンで程よく外光を調節した寝台に休んでる。或るものは起きかえり、自分のダブダブな上っぱり姿を眺めて笑っている。
 赤坊たちは、母親とは別室だ。ズラリと揺籃を並べ、小さい胸元に金の番号札をつけて眠ったり、欠伸《あくび》をしたり、元気のいい赤坊唱歌(泣くこと)をやったりしてる。
 赤坊たちの胸に光ってる金の番号札が、母親の寝台番号だ。三時間おきに、保姆がめいめいの寝台に赤坊をつれてゆき、お乳をのませるという仕かけだ。
 見ると、頭に赤いリボンを大きくむすびつけた揺籃が三つばかりある。
「あれは何です? あの赤いリボンは……」まさか、生後二日目で、もう赤色勲章を貰ったわけでもあるまい。
「ああ、あれですか」
 委員も保姆も笑って説明した。
「あれはね、皮膚が少し弱くて、おタダレ[#「おタダレ」に傍点]のある赤ちゃんなのです、おむつ[#「おむつ」に傍点]があのリボンのは
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