式の設備でシャワーがある。風呂、体重計量器。
「次は、陣痛室ですが……」
戸のハンドルをそーっとあけた。広い、白い壁の室だ。足と足とをつき合わせる位置に、ひろく間隔をおいて、幾つも寝台が並んでる。どれも真新しいシーツにおおわれ、いざと云えば直ぐ役に立つように出来ている。入ったところの寝台へ一人若い女が白い産院の服を着て臥ている。痛む最中と見え、唸って、医員の手をつかまえ、自分の手までひきよせた。
「苦しいんですよ。――私死ぬんじゃないかしら……ほかの人はもうみんな分娩室へ行ったのに私一人こんなにして、あ、あ、あ……」
おかっぱの金色の髪がもしゃもしゃになって汗を掻いた額にくっついている。自分は困って、
「安心してらっしゃいよ。ね。ここにいれば大丈夫なんだから……気を落付けなさい」
医師は脈を見た。
「あなたは初産だから、ほかの人より時間がかかるんです……安心していらっしゃい」
そこへ、看護婦が入って来た。後からしずかに唸っている若い産婦の背中を撫ではじめた。
分娩室では、丁度今五人の産婦が世話をされているところだ。助産婦が敏捷に体と手とを働かしながら、単純な優しい、励ましの言
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