下さい」
暫くすると、白い手術着を着た若い医師が手紙片手に出て来た。
「院長は今日保健省へ行きましたが、当直医員の案内でもいいですか?」
自分は、体を見て貰うのじゃない。ソヴェト同盟では、あらゆる勤労婦人に出産前後三ヵ月から四ヵ月の有給休暇を与える。出産支度料を月給の半額まで支給する。九ヵ月間牛乳代を貰える。そして、各区の産院は無料だ。
その産院を、現実にこの眼で見学したくてやって来たのだ。
「勿論結構です」
奥から看護婦が白い上っぱりをもって来てくれた。チビ[#「チビ」に傍点]の自分には長くて靴の爪先まである。
いよいよその医員に従って廊下に出たが、自分は全く往来を歩いたまんまの靴でそこを歩いてもかまわないのか、と心配した。どこもかしこも、それ程清潔なのだ。
「まずここで、体を診て貰うんです」
入口廊下から直ぐの小ぢんまりした室だ。婦人科用寝台、その他がそなえつけられて、大きい窓からキラキラ日光がさし込んでる。
「いよいよ出産が近いとわかると、この室で」
次の室の戸をあけて内部を見せた。
「風呂に入ったり、髪を洗ったりして、すっかり産院の衣服にきかえて貰います」
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