銭までも、集団的訓練のあるモスクワ人は間違いなく、こうして互に助け合う。)
 ところで、サリヤンカの手前で電車を降りて、先へ先へと行くが、ちと工合が変だ。左へ曲る通りなんぞない。
 塀の修繕をやっている労働者に、
「クララ・ツェトキンの名による産院はどこだか知りませんか?」
「そりゃ、ウンと来すぎた」
 高いキャタツの上で、手をふりまわしながら教えてくれた。停留場から戻るのを、逆に来てしまっている。
 この辺は一帯古い街だ。芝居の広告、「文学の夕べ」等のビラの貼ってある煉瓦塀について曲ると、びっくりして自分は袋小路のつき当りを見た。
 真白な素晴らしい建物だ! 芝生と鉄柵にかこまれてある。近よると袋小路ではなく路は建物について左右にわかれている。高い破風に金文字で「クララ・ツェトキンの名による産院」。
 正面のガラス扉をあけて入ると、受付だ。外観が清楚でおどろいたが、内部のこの清潔さはどうだ! タイルを張った受付のところでも、直ぐ見える階段でも、真白で、靴からこぼれた泥らしいものさえない。
 白い布《プラトーク》で頭を包んだ女に、自分は対外文化連絡協会からの手紙を渡した。
「一寸まって
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