みんな個人がただ金の力ずくでとったものではない。職業組合やソヴェト保健省が、つまり解放されたプロレタリアート自身が、社会連帯によって強く次の時代を保護しているのだ。
 九月×日。
 電車の窓から一生懸命街の様子をのぞいて行く。というのは、別に珍しいものがあるわけではない。電車をどこで降りていいのか、その見当を見覚えのある工場の塀でつけようというわけだ。
(モスクワの電車は、乗る時はきっと後部からだ。すぐ女車掌が切符の束をもってドアのわきに立ってる。乗る。直ぐ八|哥《カペイキ》(八銭)出して切符を買う。そしてズンズン中へ入り、運転手台の方から降りる。女車掌がだから走っている電車の中を苦しい思いして歩きまわって、切符を売らないですむ。ひどく混んで、電車に乗るやドシドシ押され、切符を買う間がなくてズッと真中へ押し込まれても決して心配はいらない。八哥出して、自分の隣りに立っている男にでも女にでも、
「どうか一枚切符買って下さい」
とたのむと、その人が、次へ、またその次へ、八哥は手から手へ、女車掌のとこまでキッと届く。同じようにして、切符が自分のとこまでやって来る。どんなに混んでも、度々でも、釣
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