に此方まで元気になって来るような建設の活気がモスクワ中に溢れている。
 並木道《ブリヴァール》を家まで歩いて帰った。
 爽やかな秋風の並木道《ブリヴァール》のベンチに女がゆっくり腰かけて、繕いものをしながら乳母車にのせた赤坊を日向ぼっこさせてる。乾いた葉っぱの匂い、微かな草の匂い。自動車やトラックは並木道《ブリヴァール》のあっちを通るから、小深い樹の下は静かで柔かい日光がさしとおしている。
 乳車《ちちぐるま》と女とはどのベンチにも沢山いる。
 日本も子供が多いが、何とモスクワも子供がどっさりいるんだろう!
 並木道《ブリヴァール》をもう三年間も歩くのだが、いつも自分の心に新しい感動がある。それはこれだけの子供が、ソヴェトの社会、合理的な社会主義の社会では、だれ一人として社会の保護なしに偶然には生れて来ないということだ。
 一人一人の赤坊が、母の腹にやどった時から、生きて育ってゆく権利によって生まれている。
 こうやってスヤスヤその上で眠っている乳母車にしろ、着ている小さいケットにしろ、わきで楽しそうに赤坊の繕いものをしているいろいろな年頃の母親の自由な、経済的に保証された時間にしろ、
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