る書類入れ鞄をかかえたまま馬車を下りると小戻りして、変電塔の横へ袋をもって出ているリンゴ売のところへ行った。
 ――いくら? それ一つ。
 ところどころ当ったひどいリンゴだ。
 ――十五カペイキ。
 ――じゃ二つ。
 絶え間ない通行人だ。
 乗合自動車を待つ一かたまりの群集のかなたから、今は体ごとこっちへ向きなおり、熱心に小さい日本女が金をくずしているのを待っている辻馬車御者の眼と黒い髯とが見えた。[#地付き]〔一九三一年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「読売新聞」
   1931(昭和6)年1月1日、4日、6〜9日号
※「――」で始まる会話部分は、底本では、折り返し以降も1字下げになっています。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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