モスクワの辻馬車
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)扉《ドア》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)「|よろしい《ハラショー》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)サドー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ヤ
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強い勢いで扉《ドア》が内側からあけられた。ともしびがサッと広く歩道へさした。が、そこから出て来たのは案外小さい一人の女だった。
歩道に沿って二台辻馬車が停っている。後の一台では御者が居眠りしていた。前の御者台に黒い外套を着て坐っていた御者が扉の音で振向いた。馬具の金具が夜の中にひかった。
小さい女はひどく急いでいる風で立ち止まるのも惜しそうに、歩道の上から御者に叫んだ。
――ひま?
――何処へ行きますかね?
――サドゥヴァヤ! ストラスナーヤの角とトゥウェルスカヤ六十八番とへよって、二ルーブリ!
――よろしい、行きましょう。
――二ルーブリ! いい? それで。
御者はほとんど面倒くさそうに髭のある口の中で
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