識で装った敵を破るだけに力強い真の民衆としての世界観をも未だ確立させていなかった。レーニンがゴーリキイに、噛んでふくめるようにその誤りを説いている書翰集は、今日に於ける尊い遺産として忘られぬ価値をもっているのである。
 こういう興味あり且つ重大な動揺を、生涯にゴーリキイは一度ならず経験している。一九一六年にロシアの警保局が莫大な金をつかって『ロシアの意志』という、殆ど革命的な新聞を発刊し、アンドレーエフや、ブーニン、クープリン、ソログープなどを動員したことがあった。その時、極く少数の作家がそれへの参加を拒絶したのであったが、ゴーリキイも自分の文筆の意味を全く正しく評価し、当時としては格外に高い原稿料を払ってその作をのせるという誘惑的な申出に勝った。
 この場合、ゴーリキイが作家の価値及び一般急進的インテリゲンツィアの任務に加えた評価は、褒むべきであったが、彼のその気持は一九一七年の一大画期に於て、再びレーニンと対立するような結果を導き出した。
 ゴーリキイは、「十月」の震撼的高揚の後にも「大衆の理解力は依然として外からの指導を必要とする力として残るであろう」としか考えられなかった。過去
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