カペイキ稼ぐことは容易であった。」と。
これらの波止場人足や浮浪人、泥棒、けいず買い等の仲間の生活は、これまで若いゴーリキイがこき使われて来た小商人、下級勤人などのこせついた町人根性の日暮しとまるでちがった刻み目の深さ、荒々しさの気分をもってゴーリキイを魅した。彼等が、極端な無一物でありながら、貧と悲しみの境遇の中で自分たちの何にも拘束されない生きかたを愛していること、この人生に対して露骨な辛辣さを抱いていること、それらがゴーリキイの好奇心と同情をひき起したのであった。ゴーリキイは、この群のうちにあって「日毎に多くの鋭い、焼くような印象に満たされ」「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒され」た。けれども、屑拾い小僧であり、板片のかっぱらいであった小さいゴーリキイを、かっぱらいの徒党のうちへつなぎきりにしなかった彼の天質の健全な力が、この場合にも一つの新しい疑問の形をとってその働きを現わした。これらの連中は、いつ、何を話してもとどのつまりは「何々であった[#「あった」に傍点]」「こうだった[#「だった」に傍点]」「ああだった[#「だった」に傍点]」と万事を過去の言葉でだけ
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