話す、その事実にゴーリキイの観察と疑惑がひきつけられた。この彼等の意味深い特性の発見は次第にゴーリキイの心に或る恐怖を感じさせた。ゴーリキイの若い精神は、社会の汚辱と矛盾に苦しめば苦しむ程激しくよりよい人生の可能を求めた。彼は未来を、これからを、よりましな「何ものかであろう[#「あろう」に傍点]」ところの明日から目を逸すことが出来ない。ゴーリキイは彼等のように生きてしまった人々の一人ではなかった。ゴーリキイは生きつつある者、しかも熱烈に生きんとしているものの一人なのである。「このことが、彼等から私を去らしめた。」マクシム・ゴーリキイは、その自伝的な作品「私の大学」の中で活々と当時を回想している。「私は外部からの助力を待たず、幸福な機会というものにも望みをかけなかった。が、私の中には次第に意志的な執拗さが発達し、生活の条件が困難になればなる程、それだけ堅固な賢くさえある自分を感じた。私は非常に早くから人間を作るものは周囲の環境への抵抗であるということを理解した」のであった、と。
こういう心で、ゴーリキイはカザン市の貧民窟「マルソフカ」の一部屋に、大学生プレットニョフと生活しているのであ
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