は、気持よい程生活とかけ離れていた。そして、生活の方は益々辛くなって行った。」スムールイは、どこか普通の子とちがうゴーリキイを愛し、時々無駄に過ぎてゆく自分の一生に腹を立てたように怒鳴った。
「そうだ、お前にゃ智慧があるんだ、こんなところは出て暮せ!」
然し――何処へ?
愈々深く大きくなる「何故」という疑問、社会の矛盾に対する苦悩が、ついにマクシム・ゴーリキイを古いニージュニの場末町から押し出した。ゴーリキイは、カザンへ出た。彼はカザンで大学へ入ろうと決心したのであった。ニージュニで知り合った彼より四つ年上の中学生が美しい長髪をふりながら彼のその計画を励ました。
「君は生れつき科学に奉仕するために作られているんだ。――大学はまさに君のような若者を必要としているのだ。」
ところが、カザンに到着して三日経つと、ゴーリキイは、自分が大学なんぞへ来るよりはペルシャへでも行った方が、もう少しは気が利いていただろうということを知った。彼独特な「私の大学」時代がはじまった。ゴーリキイは、その時代のことをこう書いている。「飢えないために、私はヴォルガへ、波止場へと出かけて行った。そこで一五、二〇
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