、フォークと匙を光らせていなければならない。だが、一方には、そうやって洗った皿を一つ一つまたよごし、鉢を使い、ナイフや匙をきたなくしてゆく人々がいる。それらの人々は全く平気に、全く当然なこととしてやっているのだが、何故これは当然なのだろう? 朝は六時から夜半まで働いているゴーリキイの少年の心には疑問が湧いて来る。何故、一方に何でもしなければならない人々があり、もう一方にはそれらの人々に何でもさせた結果を利用することの出来る人々が存在するのであろう。彼の周囲の生活の中には、泥酔や喧嘩や醜行やが終りのない堂々めぐりで日夜くりかえされているのだが、それらすべては何のために在るのだろう。
当時、ゴーリキイは、汽船の料理番スムールイに読むことをおそわった。初めはマカロニ箱にこしかけて、『ホーマー教訓集』『毒虫、南京虫とその駆除法、附・之が携帯者の扱い方』などという本を音読させられた。が、だんだん『アイ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ンホー』を読み、『捨児トム・ジョーンズの物語』を読み、「知らず知らずの間に読みなれて」彼にとっては「本を手にするのが楽しみになった。本に物語られていること
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