賢く、「すべての人々にとっての母であったかということについて」ゴーリキイは誰かに語りたいという切ない願望を感じたが、その対手は当時のゴーリキイの周囲にいなかった。「私は幾年か過ぎて、自分の息子の死について馬と話す馭者についてのチェーホフの驚く程真実な短篇を読んだ時に、これらの日を思い出した。そして、鋭い哀愁の、これらの日に私のまわりには馬もなく、犬もなかったこと、そして鼠と悲しみを分つことを考えつかなかったことを惜んだ――それはパン焼場に沢山いて、私は彼等と良い親しい関係にあったのだが。――」
ゴーリキイのまわりには巡査のニキフォールウィッチが鳶のように廻りはじめた。カザンの町では「手から手へと何か感動的な本が渡ってゆき、人々はそれを読んで――論じ合った。」
或る夜、或る空屋へ人々が集った。口笛を吹き、歌を唱い、ほろ酔い職人のふりをしたゴーリキイも加った。朗読されたものは、以前の「|民衆の意志《ナロードノ・ヴォーレツ》団員」ゲオルギー・プレハーノフの「我等の意見の対立」というものである。そうパン焼のゴーリキイはきかされた。朗読がすすむにつれ暗闇の中で、
「愚論!」
と吼える者がある
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