たちが訪問することさえ思いつかなかったセミョーノフの不潔きわまる地下室「日がな一日沸ぎっている湯が眠そうに、気懶るそうにピストンを動かし」「濃い、臭い、いきれ立つ湯気の中で」日頃彼等の夢想しつつある民衆の新たな一典型が成長しつつあるという現実の豊富な営みを知ることが出来なかった。もとより、ゴーリキイ自身は知りようもない。
 ゴーリキイの地下室仲間は一般に、当時急進的インテリゲンツィアのもっている革命的な値うちを素直にうけ入れられない程生活に圧しひしがれていた。パン職人たちの唯一の歓びは、給金日に淫売窟へ出かけることであった。すると、そこの「喜びのための娘たち」は酔っぱらいながら彼等に、学生や官吏や「一般に小綺麗な連中に」対する悪意のある哀訴をした。それをきくと「教育のある人達[#「教育のある人達」に傍点]に対する片輪の伝説」で毒されているパン焼仲間は不可解なものへの嘲笑と敵対心を刺戟され、毒々しい喜びで目を閃かせながら叫ぶのであった。
「ウー、……教育のある連中は俺達よりわるいんだ!」
 後年書かれた短篇小説「二十六人と一人」(一八九九)「赤いワシカ」(一九〇〇)等にはこのセミョーノフ
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