とうに結婚しました。私たちは只婚礼をしなくちゃならないの」
「ワシリー・ワシリーエフが俺にワーリャを呉れねえことはわかっている。だから、俺はあの娘を盗みます。唯お前は俺たちを助けて下さい。石で打ってもいい。どっちみち俺はゆずらない」
ひっくり返るほどたまげながら、「こうなりゃ、ほかになんとしよう」アクリーナは「マクシムの額とワルワーラの編髪に祝福した」
若い者たちはアクリーナの思いやりのある才覚で、こっそり教会で婚礼の式をあげることが出来たのであった。が、ヴォルガの曳舟人足から稼ぎためて、今は九年間も改選なしの職人組合長老にまでなっているワシリー・カシーリンにとって、謂わば渡り職人のようなマクシムに一人娘を呉れてやることなど我慢出来るものではない。ワシリーの日頃の自慢は、ワーリャは貴族へ、旦那へ嫁入らすということなのであった。若夫婦はゴーリキイが生れる迄勘当の扱いであった。
孫アリョーシャ(ゴーリキイ)の誕生は、一時、気狂いのように荒々しく慾張りな、カシーリン爺さんの心持をも和らげたように見えた。若い夫婦は老人の家へ来て暫く一緒に暮したが、確かりしたマクシムに対するワーリャの兄弟
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