記憶の前には、中川一政氏によって装幀された厚い一冊の本と、ゴーリキイの如何にも彼らしい「なに、結構読める」と云った声とがまざまざと結びついて生きていて、その思い出はゴーリキイという一人の大きい作家の生涯の過程を私に会得させるために、驚くほど微妙な作用をしているのである。
ソヴェト同盟の文学史に於て、マクシム・ゴーリキイは、例えて見れば最後の行までぴっちりと書きつめられ、ピリオドまでうたれた本の大きい一頁のような存在である。私たちは、自分たちに課せられている頁の数行をやっと書いたに過ぎない。ゴーリキイの生き方、作家的経験から若い時代の生活者、作家の汲みとるべき教訓は実に多いと思われる。今日までに刊行されているゴーリキイの作品の全集や、最近の文化、文学運動に対する感想集等の外に、今後はおそらく周密に集められた書簡集、日記等も発表され、ますます多くの人にゴーリキイ研究の材料と、興味とを与えることであろう。
既にソヴェト同盟ではゴーリキイの文学的遺産の整理、研究のためにステツキイを委員長として特別な委員会が組織された。
マクシム・ゴーリキイの生涯は、人類の歴史が今日の段階に於て輝やかしき
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