し蝋燭の青い光に満たされたその桶のなかぐらいの大さの洞の横手は、色硝子のこわれや茶器のかけら[#「かけら」に傍点]で一面に飾られている。真中の小高いところは赤い布で包まれていて、その上に小さい棺が安置されているのであった。棺には銀紙が貼られているが、そこから突出ているのは雀の小さな灰色の爪と鋭い嘴であった。棺の後方の聖台、その上の銅製の十字架。三本の燃えさし蝋燭のともっている燭台にはどれもお菓子の金紙や銀紙がはりつけられてある。洞の中には、燃える蝋の匂い、腐ったものの臭気、湿った地べたの匂いなどが一杯である。ぎごちない驚異の感情がゴーリキイをとらえた。然し、恐怖は起らない。サーシャが貪慾に訊いた。
「いいだろう?」
 だが、一体これらは皆何のためなのだろう? ゴーリキイは率直にその疑問を呈出した。
「何にするんだい?」
「辻堂さ、似てるだろう?」そして「雀から聖骸がとれるかもしれないよ。罪科もないのに苦しみを受けた致命者なんだから……」
 ゴーリキイは、いかにも彼の性質らしい現実的な問いを発した。
「あの雀は死んでいないのかい?」
「いや、物置に飛んで来たのを帽子でおさえてしめ殺したん
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