をしていた?」
ゴーリキイは、あった通りのことを云った。
「屑拾い――そいつは乞食よりよくない。泥棒よりよくねえ」
「――泥棒もやったよ!」
主人は猫のように両手を帳場の上へ置いてびっくりした。そして、声を変え、
「なんだ? 泥棒もやった? 何を? どんな風に?」
薄板をかっぱらうことについてゴーリキイは説明する。
「いや、それっくらいのことは取立てて云う程のこっちゃねえ。が、この店で[#「この店で」に傍点]靴や金を盗みでもしようものなら、よしか、お前を監獄へ叩き込んで、大人になる迄出られねえようにしてやる!」
ゴーリキイは、一層主人がいやになった。玄関番をして立ちながら、観察する商売の作法も彼の性に合わなかった。番頭は婦人客の前へ跪き、妙な恰好に指をひろげて靴の寸法を計る。婦人客の足にさわる時は、まるで、今にもその足がこわれるかと思うように大切に扱う。ところが「その女の足ときたら――太くてまるで撫で肩の徳利を逆にしたようだ。」
時によると、女客が仰山な声で、
「あら、いやだ。擽ったいわ!」
などと叫んだ。
「どう致しまして! これは……その、丁重に致しましたんで……」
或
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