らないことと知らないことを持っている神であった。ゴーリキイは、少しびっくりして訊ねるのであった。
「神だって知らないことがあるの?」
 すると、祖母は静かに、悲しげに答えた。
「もし神様が何でも御存じなら、きっと、人間だとてこんなにどっさり悪いことはすめえ。神様は多分、天上から地上のおれ達皆を眺めて、時にはどんなに涙をこぼしたり、声をあげて泣いたりしなさるこったろう。『お前ら人間達よ、人間達よ、可愛い俺の人間たちよ! おおどんなに俺にはお前達が憐れじゃろう!』」
 こういう神はゴーリキイに近く、又わかり易かった。時々ゴーリキイが大人の醜い争いに義憤を感じて、例えばよその上さんが穴蔵へ下りたところを上から揚げぶたを卸して封じこめたりすると、祖母はゴーリキイの肚にしみとおるような言葉を優しく云った。
「いいか、レニーカ、可愛い子や。大人に混っちゃならねえ。お前、このことはしてはならねえことと自分で禁じるだよ。な、大人は損われた人達よ、あの人たちはもう神に滅ぼされた、だが、お前はまだそうじゃねえ――だから、子供の智慧で暮しな。誰がどんなにわるかろうと、それはお前のことじゃねえ」
 この活々と
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