ねて来た。彼は静かに話しだした。
「ところで俺のところへやって来る気はないかね? 俺はヴォルガを四十露里ばかり下ったクラスノヴィードヴォの村に住んでいるんだが、そこに俺の小店があるんだ。君は俺の商売の手伝いをする。これには大した時間をとりゃしない。俺はいい本を持っているし、君の勉強を助けてあげる――いいかね?」
「ええ」
「金曜日の朝六時にクルバートフの波止場へ来てクラスノヴィードヴォからの渡船を訊きたまえ。主人は、ワシリー・パンコフだ」
 立ち上り、ゴーリキイに幅の広い掌をさし出し片手で重そうな銀の※[#「食へん+(韜−韋)」、第4水準2−92−68]パン時計を取出して云った。
「六分で済んじまった! そうだ、俺の名は――ミハイロ・アントーノフ、苗字はロマーシ。そうだ」
 こうして二日後には、クラスノヴィードヴォに向ってやっと解氷したばかりのヴォルガを下った。桶や袋や箱を重く積込んだ渡船は帆をかけ、舵手席に、平静で、冷やかな眼をしたパンコフが坐り、舷には灰色の脆い早春の氷塊が濁った水に漂いながらぶつかる。北風が岸に波によせて戯れ、太陽が氷塊の青く硝子のような脇腹に当って明るく白い束の
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