一青年労働者であったシャポワロフには知られなかった。彼のまわりには、夜学校の中にも、彼の求めているそれらしい人の片影すら見出せなかったのであった。

 ところで、ゴーリキイが、カザンの町端れの空屋の中でプレハーノフの論文朗読を聴いた時、それに対するナロードニキの爆発的反撥の声の中に最もつよく叫ばれた「ウリヤーノフの処刑」は、引続いて行われためちゃめちゃな学生狩のため、アレキサンドル三世の政府が、初めてぶつかったインテリゲンツィアの全国的反抗を喚起する結果になった。大学生騒動はモスクワから始って、各都市に波及した。
 カザンで、ゴーリキイのまわりは空虚になった。カザン大学でも騒動がはじまった。(十八歳のウラジミル・イリイッチ・ウリヤーノフ(レーニン)がカザン大学の学生の指導者であった。)だが、その意味はゴーリキイにとって不明であった。動機は、漠然としたもののように感じられた。沸き立つ学生の群を眺めると、ゴーリキイには自分がもし「大学で勉強する幸福」を得られたらそのためには「拷問さえも辞しはしない」のにと、考えられるのであった。
 元働いていたセミョーノフのパン焼場へ行って見ると、パン焼職
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