リスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。
 ゴーリキイがカザンで、デレンコフの店の裏の小部屋に坐ってナロードニキの討論に耳を傾けている、その時、シャポワロフは遠くペテルブルグにあって仲間の労働者に聖書の説明をしてやりながら、その中から次第に自然科学へ関心をひかれて行きつつあった。最も熟練工の多いワルシャワ鉄道大工場の金属工のなお沢山の者が、地球は円いのか、扁平なのか、動かないのか、それとも太陽の周囲を廻転するのか等とシャポワロフに質問した。バイブルはこれらのことを正確に説明するには何の役にも立たない。その上工業恐慌の影響で、どの工場でも労働者の賃銀が下がる一方であった。賃銀切下げは親方の勝手な才量で行われた。キリスト教とトルストイとは悪に報ゆるに悪をもってするなと云う。禁酒会員であるシャポワロフは、この教義と一日一ルーブルの稼ぎで、母、妹、二人の弟を養わねばならない現実生活が彼の全身に囁き込む生きた抗議との間に生じる矛盾で苦しんだ。
 ゴーリキイは、恐ろしい乱読と廻り路を通してではあったが、ともかくこの時代には世界の代表的古典文学の或る物を読み、チェルヌイシェ
前へ 次へ
全125ページ中104ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング