ィラ》アッカ・ヴィヴァ。
「叔母《タント》ソフィが小ロシアの曲をピアノで弾いているので、それが私に田舎の家を思わせる。」
 マリアには、もうよその客間で娘たちを感歎からひざまずかせるような声があった。「衣裳よりほかのことでほめられるのは非常な感動をおこすものである! 私は勝利と感動のために造られている。それ故、私のできることのうちで最上のことは歌う人になることである。もし神様が、私の声を保存[#「保存」に傍点]し、強め[#「強め」に傍点]、発達[#「発達」に傍点]させて下さるならば、私は自分の望む通りの勝利が得られるだろうと思う。」
 マリアは、執拗にこの希望を追って、そしたら「私は私の愛する人を自分のものにすることもできるだろう。」と、自分が貴族の娘であることの有利さまで熱心に数えている。おさない早熟なマリアは、同じニイスにいて、往来で一二度ばかり見うけたイギリスの公爵H《アッシュ》に熱中なのである。
「私は慎しい少女だから、自分の夫になる人より外の男には決して接吻しない。私は十二から十四まで位の少女には誰もいえないようなある事を誇としていい得る。それは男に接吻されたこともなければ、
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