クッションの上に両足をのばして安楽椅子にかける。私は、その直ぐそばのもう一つの安楽椅子にかける。そうして六時までもそうしている。」マリアは全部白ではあるが、布地とつやの様々の変化を美しくあしらった部屋着を着ている。「バスチャン・ルパアジュの目はそれを見てうれしそうに見張った。――おお、私に描くことができたら! 彼はいう。そうして私も! もうだめ、今年の画は!」
十月二十日
「天気がすぐれてよいのにかかわらず、バスチャン・ルパアジュは森へ行かないでここへ来る。彼はほとんどもう歩くことができない。彼の弟は彼を両腕の下から支えて、ほとんどかつぐようにしてつれて来る。……この二日間、私の床は客間《サロン》に移された。でも部屋が非常にひろくて、衝立《ついたて》や大椅子やピアノで仕切られてあるから、外からは見えない。私には階段をのぼるのが困難である。」
マリア・バシュキルツェフの日記はここで終っている。マリアはこの日から十一日後、一八八四年十月三十一日に二十四歳の生涯を終った。バスチャン・ルパアジュはそれから四十日経った十二月十日に死んだ。[#地付き]〔一九三七年七月。一九四六年六月補〕
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