ボン・ボヤージ!
――渡米水泳選手におくる――
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四九年八月〕
−−
古橋広之進君をはじめ五名の水泳代表選手が、来る十一日のパンアメリカ号で渡米する。全米水上選手権大会へ、これらの日本の若い精鋭が出場するようになったことは全日本の明るい関心をあつめている。合宿先である福田屋旅館の板前さんまでただごとならぬはりきりかたで、選手のかたは一日一里以上も泳ぐのですから、食事についても十分気をつけてと、もの惜しみしない談話が新聞にのっている。その記事を四、五人の男が珍しそうに大切そうに顔をさしのばしてとりかこんでいる写真がある。そのまんなかで古橋君は若者らしく笑っている。
この写真を眺めて、わたしはいつか偶然N・H・Kのスタディオで同席した古橋君の笑い顔を思い出した。そのとき、幾人かの人々は、一つテーブルをかこんでかけて、ひまな時間を、低声に雑談していたのだった。古橋君が、世界記録を破った一九四七年の暮のことで、N・H・Kは戦後日本の空を世界に向って明るく開
次へ
全4ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング