この作品に対して、まき起ったからだ。
リベディンスキーが、「射撃」の作者に対して、心理描写も、プロレタリア・リアリズムにとって欠くことの出来ない一つの要素だと云った時は、間違っていなかった。「英雄の誕生」でリベディンスキーは、では、どんな階級性や、社会性をもった心理を描写しているだろうか?
党内の或るものや、コムソモールはリベディンスキーを公然と非難した。経験あるボルシェヴィキは、「英雄の誕生」の主人公みたいな解釈や態度を性慾に対してもってはいないんだ。彼等は云った。自分一個の性慾の苦しみを、党の仕事机の前でもってまわって念いれて噛みなおし、味いなおし、さもそれが重大な社会建設の中枢にふれた精神作業だとでも思いこんでいるような間違いはしていないんだ、と。
リベディンスキーは、彼の持論である心理描写において、全く個人主義的な立場での心理穿鑿に陥ったばかりではない。人間の性慾というものの扱いかたにおいて、ウォロンスキーが「世界を見る芸術」という論文で云った一種の生物主義にまで近づいてしまった。ボルシェビキだって人間だ、人間であるからは性慾に苦しむこともある。という人間生物論めいた見解
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